左脳、死んでも生きてるってよ

障害者でもないが健常者でもない。普通でもなければ異常にもなれない日々。

「データ入力」に食いつくな。他人にお前のオールを任せるな。

デカいビルの15階。アリの巣のように細かい部屋が連なっている。その中の一室に入った。狭く無機質な部屋に青い仕切りがいくつもある。名前を聞かれたので答えると、入口のすぐ手前に申し訳程度に置いてある3つのイスの中の1番奥のイスに座る。

 

青い仕切りの中では派遣会社の人と登録者とが仕事の相談をしていた。「子供のお迎えがあるので時短で……」「そうするとここのお仕事くらいしかこのお時給でこの時間までのシフトは少ないですね」「そうですよね」

 

あらかじめ用意したセリフを喋ってるみたいに淡々と仕事を紹介する社員。なんとも納得行ってなさそうな登録者。気づけば1時間も他人の仕事事情を聞いて待っていた。

 

やっと青い仕切りの中に通されると小型のパソコンを渡されてタイピングテストをした。パソコンが電子辞書のデカい版くらいだしどこか歪んでるのか打ちづらい。イライラした。テストが終わってその電子辞書のデカい版を持って社員が消えて、軽く面接をした。職歴を聞かれてテレビの製作会社を2年してた、と少し盛って話した。「それは大変なお仕事でしたよね〜」と決まり切った無機質な抑揚で歯並びの悪い茶髪ロングの世間の思うOLのコピペみたいな女性社員が言う。「いえいえそんな〜」とこちらも決まり切った抑揚で答えた。いくつか話をしてから「合いそうなお仕事を探してきますね」と女性社員が消えた。

 

体調不良で辞めたと言ったけどよかったかな、まあ、嘘ではないし、、、と思って女性社員が戻ると2枚くらいのペラを持って女性社員が戻ってきた。

「少なっ」

想像通り2枚のペラには仕事内容や時間帯、もろもろの情報が載っていた。1つは事務っぽい仕事で時給1200円。交通費なし。最寄り駅が各停で降りなきゃいけない。フルタイム。もう1つはコールセンター。時給1100円。交通費は1日400円まで可。4時間からフルタイムまで可。

「クソだ!」

思わず「あ〜」とつぶやいてしまった。けれど女性社員は当たり前のように「やっぱりお時給が高いと仕事内容も複雑になってきちゃうんですねー。まあ、こちらは交通費でるので。」まるでとても良いモノのように喋ってくるけど、交通費400円て。小学生でももう少しお小遣いもらっとるぞ。

「時間無駄にした!!」

めちゃくちゃ後悔した。イライラした。とりあえず持ち帰って考えますねとこちらも負けない無機質さで派遣会社を後にした。イライラした。

時給100円の違いで交通費が400円出るか出ないかってどんだけなんだよ!!クソ!!

無機質が無表情に事務的に殴りかかってくる。こちらも無機質に無表情で事務的に殴り返したいが届かない。金がない。無限にかかり続ける電話を取り続ける未来がまた少し続くなと確信した。

会社に入ったときは「もう派遣会社なんかオサラバだわ!」なんて思ったけどまだ頼り続けることになるとは思わなかっただろう。お前、昔の自分、お前は仕事ができない。仕事に生きていける感じの人種じゃない。まだまだ全然「世間」という軌道からフルスロットルではみ出し続ける。

そのままはみ出し続けろ。

その船をお前のオールで漕いでゆけ。

お前が消えてよろこぶものにお前のオールを任せるな、だ。心に刻め。

 

派遣会社は人気の「データ入力」をエサに全く割りに合わない仕事を紹介されるところなのでむやみに登録するのはやめましょう。時間の無駄です。